公 益 財 団 法 人  美 術 工 芸 振 興 佐 藤 基 金
THE SATOH ARTCRAFT RESEARCH & SCHOLARSHIP FOUNDATION

HOME | 第38回淡水翁賞

第38回淡水翁賞(令和四年度)


第38回淡水翁賞の受賞者が決まりました
 
 去る2023年1月24日(火)に第38回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
 淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で38回を数えます。
 45歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募頂けます。
 今回の応募者は4名と少数でしたが、どの候補者も充実した力量の持ち主でした。また作品傾向が多種多様であったため、選考委員一同は選考上の共通した土俵をもうけることができず頭を悩ませました。そこで今回は、力量が世に認められている作家を選ぶことよりも、今後の伸びしろがある作家、いわば宝石の原石を探すことに注力しました。
 その中から、第38回淡水翁賞に下記の3名が選出されました。
 選に漏れた方も、造形、技術とも素晴らしいものがありました。淡水翁賞は、年齢制限はあるものの、何度でも応募することが出来ますので、再度、チャレンジして頂くことを願っています。(樋田豊郎)

 最優秀賞
 上田 剛  
「prehistory -haze-」(ブロンズ)、「nimeralogy」(ブロンズ) ほか

【寸評】
 上田剛は金属の「錆」を、汚れや劣化のようなネガティヴな要素とは考えずに、むしろ金属特有の質感や色彩としてポジティヴな要素と捉えてきた。錆のこうした応用法は、ブロンズ彫刻のパティネ(青銅色)のように従来からもあったが、上田はそれをさらに多様化しようと試みている。その過程にこそ、作者の個性が現れるだろう。現在、この作家はトルソや花瓶を制作しているが、これから作風を拡げていくことを期待して最優秀賞とした。
prehistory -haze-
2022年
23×10×62 cm
ブロンズ
nimeralogy
2022年
17×8×70 cm
ブロンズ

 優秀賞
 小嶋 崇嗣
「Point_shadow_7 build」、「Point_shadow_7 build」 ほか

【寸評】
 小嶋の作品は、ジュエリーにたいする社会通念を変革する力を秘めている。彼のブローチや指輪を見る人は、構造が明解な橋梁や、規則的反復が美しい雪の結晶を連想するだろう。従来のジュエリーがその長所としてきた「高級感」や「かわいらしさ」とは無縁だ。小嶋のジュエリーはこの先どこに向かうのだろうか。そんなワクワク感をこめて、優秀賞とした。
Point_shadow_7 build
2022年
3.7×3.7×4.5cm
シルバー950,スモーキークォーツ,ブラックルテニウムメッキ
Point_shadow_4 build
2022年
2.6×2.1×4.7cm
シルバー950,スモーキークォーツ,ブラックルテニウムメッキ

優秀賞
内田 望
「go somewhere#1」「Rhino with Askari wa kifaru」 ほか

【寸評】
 内田のつくるペンギンやサイは、機械仕掛けの動物のようである。明治時代に西洋に輸出された龍の自在置物の、日本国内向けヴァージョンといったところだろうか。アニメを見ているような陽気な味わいがあり、その点が類似作品から一歩抜きんでている。「時計仕掛けのオレンジ」という題名の映画があったが、そのように発想にもう一捻りが加味されると、内田の動物はもっと生彩を放つだろう。


go somewhere#1
2022年
54×45.5×43cm
鉄、真鍮、革、樹脂、木

Rhino with Askari wa kirfaru
2022年
270×95×345cm
鉄、真鍮、木、ステンレス鋼

第38回淡水翁賞選考委員

北村眞一
中川 衛
樋田豊郎
春山文典