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第35回淡水翁賞(平成30年度)


第35回淡水翁賞の受賞者が決まりました
 
 去る1月30日(水)に第35回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
 淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で35回を数えます。
 45歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募頂けます。
 今回は力のある7名の作家の応募がありました。
 応募者の作品を見ると、鋳金、彫金、鍛金のそれぞれの技法を駆使した作品で、内容もオブジェ、伝統工芸、ジュエリーなど様々ですが、何れの応募者も素材に真摯に向き合いながら制作していることが感じられました。
 その中から、第35回淡水翁賞に下記の5名が選出されました。
 選に漏れた方も、造形、技術とも素晴らしいものがありました。淡水翁賞は、年齢制限はあるものの、何度でも応募することが出来ますので、再度、チャレンジして頂くことを願っています。

 最優秀賞
 西岡 美千代 
「深淵」(アルミニウム・アクリル板)、「侵蝕」(アルミニウム・真鍮)ほか

【寸評】
鋳金の作品は重く硬い、そのようなイメージを覆す作品たちです。西岡氏の作品は、軽く、軟らかく、そして空間に溶けていきそうな儚さを感じさせます。実態と幻影とが混ざり合い、どこまでが現実で、どこからが非現実なのか。アルミニウムという素材と造形とが調和して見る者を引きつけて止みません。
深淵
2018年
90×90×25cm
アルミニウム・アクリル板/ガス型鋳造・石膏埋没型鋳造
 
侵蝕
2018年
130×130×4cm
アルミニウム・真鍮/ガス型鋳造

 最優秀賞
 丸山 祐介
「HIKIFUNE」(香炉)(銅、真鍮、銀、金箔)、「空の箱舟」(オーナメント)(銅、真鍮、金箔)ほか

【寸評】
細かいパーツまで丁寧に仕上げられた舟の形の作品は、今にも動き出しそうです。「空の箱舟」の気球部分はアルミ(フォイル)バルーンにしか見えず、これが硬い金属(銅)で造られているとは驚きです。丸山氏は多作の作家です。多作でありながら、一つ一つの作品が大変魅力的だということは、その造形力と技術力が極めて高いことを示しています。
HIKIFUNE
2018年
H18× W22× D7cm
銅、真鍮、銀、金箔
空の箱舟
2018年
H50× W380× D16cm
銅、真鍮、金箔

 

優秀賞
加藤 貢介
「Aria」(鉄、ニッケル)、「Legato」(鉄、ニッケル)ほか

【寸評】
加藤氏の作品はダマスカス鋼(数種類の金属を積層し鍛造し、縞模様を見せる鋼材)による作品です。数種類の鋼とニッケルを熱と圧力により接合する鍛接技法を用いて素材を叩き伸ばし、折り返しては鍛接を繰り返し、およそ6000層にまで積層させています。その大変な労力を使って創り出された素材を、動きのあるみごとな造形作品に仕上げています。


Aria
2018年
91×25×21 cm
鉄(極軟鋼、SPCC、SS400、S25C、S45C、S50C、
SUJ-2、SK-3)、ニッケル

Legato
2018年
32×28×32cm
鉄(極軟鋼、SPCC、SS400、S25C、S45C、S50C、
SUJ-2、SK-3)、ニッケル

優秀賞
久米 圭子
「spore」(銅、真鍮)、「wonders 060-2」(銅、真鍮)ほか

【寸評】
久米氏の作品は鍛金、透かし彫りにより造ったパーツを蝋付けして形にした作品で、美しいフォルムに仕上がっています。一つ一つの無機質なパーツが、組み合わされ形になるにつれ命を吹き込まれていったようで、人の心奥にある遠い記憶を呼び覚まします。細部まで丁寧に仕上げられた魅力的な作品です。

spore
2018年
H22.5× W31× D31cm
鍛金・透かし彫り・ロウ付け
 
wonders 060-2
2018年
H9× W8× D8cm
鍛金・透かし彫り・ロウ付け

優秀賞
服部 美樹
「雨を呼ぶ」(アルミニウムほか)、「origin」(アルミニウムほか)ほか

【寸評】
とにかくポップで楽しい作品たちです。服部氏はアルマイト着色という着色方法を使って、一つ一つのパーツに金属光沢のある生き生きとした様々な色をまとわせます。何十ものパーツを組み合わせて現れたその作品は、地球外生物か、と思う様な奇妙で、それでいて愛嬌のある作品です。造形と色彩の調和が素晴らしく、金属工芸の楽しさを直截に教えてくれます。
 

雨を呼ぶ
2018年
H80×W28× D25cm
アルミ(A2017)、七宝、アクリル
 
origin
2018年
H40× W40× D30cm
アルミ(A2017)、七宝

第35回淡水翁賞選考委員
宮田亮平(金工作家)
中川 衛(金工作家、重要無形文化財保持者)
原田一敏(東京藝術大学名誉教授)