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第34回淡水翁賞(平成29年度)


第34回淡水翁賞の受賞者が決まりました
 
 去る2月1日(木)に第34回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
 淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で34回を数えます。
 45歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募いただけます。
 今回は力のある8名の作家の応募がありました。
応募者の作品を見ると、鋳金、彫金、鍛金のそれぞれの技法を駆使した作品で、内容もオブジェ、伝統工芸、ジュエリーなど様々ですが、何れの応募者も素材に真摯に向き合いながら制作していることが感じられました。
その中から、第34回淡水翁賞に下記の5名が選出されました。
選に漏れた方も、造形、技術とも素晴らしいものがありました。淡水翁賞は、年齢制限はあるものの、何度でも応募することが出来ますので、再度、チャレンジしていただくことを願っています。

 最優秀賞
 本郷 真也 
「流刻」大山椒魚(鉄)、「暁」烏(鉄)ほか

【寸評】
 鉄という素材が、こんなにも生き生きとした造形に変わるのか、そう思わずにはいられない作品たちです。本郷氏は鉄という素材を鍛金技法によって造形化しています。鉄という素材は、やがて錆びて朽ちてゆきますが、そのような金属だからこそ、「生きる」ことをテーマにしている本郷氏にとっては恰好の材料だったのでしょう。細部まで丁寧に仕上げられた作品には力強い生命が宿っています。

「流刻」大山椒魚
2017年
85×98×60cm

「暁」烏
2017年
81×51×40cm


 最優秀賞
 留守 玲
「秩序の還元」(鉄)、「裏と潜熱の青春」(鉄)ほか

【寸評】
 留守氏は鉄を溶かした素材を接合し、それを割ってパーツにして更に溶接しながら一つの作品へと昇華させてゆきます。まるで死と再生を繰り返しながら新しい生命が生まれてくるかのようです。そうして創られた作品は鉄とは思えない生命感に溢れています。耳を近づければ、その鼓動が聞こえてきそうです。
留守玲《秩序の還元》
秩序の還元
2017年
H92.5× W29.0× D18.3cm
留守玲《裏と潜熱の青春》
裏と潜熱の青春
2017年
H18.5× W79.0× D31.0cm

 

優秀賞
藤田 謙 
「結束する家」(銅、真鍮)、「鋸の家」「金槌の家」(炭素鋼、真鍮、木)ほか 

【寸評】
 「鋸の家」「金槌の家」と題された作品は、家の造形が施された作品で、実際に鋸、金槌としても使用できるように制作されています。これらの作品は道具なのかオブジェなのか。実際に持ってみれば手になじみいかにも使い心地がよさそうです。身近な道具に思いもしなかった要素を加える面白さ。素材にこだわり、実用品としても完成された技術の確かさ。人をわくわくさせる作品です。

藤田謙《結束する家》

結束する家
2017年
H55.0× W44.0× D28.0cm
銅・真鍮
 
藤田謙《鋸の家》
藤田謙《金槌の家》

(上 )鋸の家 H14.0× W45.0× D3.0cm
(下 )金槌の家 H10.0× W40.0× D3.5cm
2017年
炭素鋼・真鍮・木

優秀賞
佐治真理子 
Golden fruit」(真鍮、鉄)、「Wall」(真鍮)ほか

【寸評】
 佐治氏の作品は主に真鍮を素材とした鋳金技法による人形です。フラットな顔面に簡素な目・鼻・口を表現した、独特な雰囲気を纏ったこれらの人形は人々から親しみを込めて「サジ人形」と呼ばれているそうです。ゆるやかな表現の造形は、見る者の心を平穏にしてくれそうです。制作者の思いが感じられます。

佐治真理子《Golden fruit》
Golden fruit
2017年
H45.0× W35.0× D35.0cm
真鍮・鉄板
佐治真理子《Wall》
Wall
2017年
H18.0× W5.0× D5.0cm
真鍮

特別賞
鈴木成朗 
「糸目紋棗釜」(鉄)、「責紐銚子」(鉄)ほか

【寸評】
 長い年月を経て、素材、技法、形が定まってきた器種に個性を表すのはなかなか難しいことですが、鈴木氏は現代風の文様をアレンジすることによって、伝統的な器種である茶釜、銚子に新風を吹き込んでいます。しかも技術と造形と文様が調和して、存在感のある作品に仕上げています。これからの展開が楽しみです。

糸目紋棗釜
2017年
H18× D18.5cm
責紐銚子
2017年
H9× W19.7× D14.4cm
鉄・銀

第34回淡水翁賞選考委員

宮田亮平(金工作家
中川 衛(金工作家、 重要無形文化財保持者)
原田一敏(東京藝術大学名誉教授)