第33回淡水翁賞の受賞者が決まりました
去る1月30日(月)に第33回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で33回を数えます。
45歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募頂けます。
今回は力のある4名の作家の応募がありました。応募作品を通覧すると、オブジェと伝統工芸が半々で、技法でみると、1名を除いて鋳金の技法で制作しており、例年になく分野に偏りがありました。
しかしながら、今回は、いずれの作家の作品も素晴らしく、第33回淡水翁賞は下記のとおり、4名の応募者全員に贈ることが決まりました。
最優秀賞
中嶋 明希
「あしをのばす」(鉄)、「めをつける」(鉄)ほか

あしをのばす
2016年
H950× W850× D155mm
鉄

めをつける2
2016年
H390× W340× D330mm
鉄
優秀賞
般若 泰樹
「吹分花器」、「吹分四方盤」(いずれも黒味銅、真鍮)
【寸評】
般若氏の作品は吹分という技法を用いた作品です。吹分とは、溶解した2種または3種の金属(白銅・真鍮・唐金など)を一つの鋳型に順次流し込み、幻想的な模様を作り出す鋳造技法のことで、魅力的な模様を出すには、豊富な経験と高い技術が要求されます。般若氏の作品には見事な吹分模様が出ているとともに、思わず使いたくなるような造形となっています。

吹分花器
2016年
縦 14.5×横 34.0× 27.0cm
黒味銅、真鍮

吹分四方盤
2016年
縦 29.0×横 29.0× 3.0cm
黒味銅、真鍮
優秀賞
長野 新
肩衝筒釜「霞滝」(鉄)、「縦筋釜」ほか
【寸評】
長野氏の作品は茶の湯釜です。茶の湯釜は、数百年の長い歴史がある上に、その特別な用途のために、作品の大きさや形に制約があり、新機軸を打ち出すことが難しいのですが、長野氏は新たな造形表現に果敢に挑戦しています。例えば、塗り込みという技術を用いて肉厚な文様表現を行っています。まだまだ荒削りなところもありますが、それが却って肉厚表現と調和して魅力的な釜になっています。

肩衝筒釜「霞滝」
2016年
鉄

「縦筋釜」
2016年
鉄
優秀賞
南 時俊
「場所の記憶」(砂張)、「遠景」(鉄)ほか
【寸評】
南氏の作品は、南氏のふるさと・韓国の民具から着想を得た作品で、今造られた作品にも拘わらず、長い時を感じさせる作品です。そう思わせるのは、独特なのに何故か懐かしいような形、使い込まれたように見える鋳肌にあるのかも知れません。一見すると大らかな造形にも見えてしまうのですが、よく見れば細部まで丁寧に造っています。咀嚼すればするほど味わい深くなる作品です。

場所の記憶
30×18×18cm
砂張

遠景
20×32×13cm
鋳鉄
第33回淡水翁賞選考委員
中川 衛(金工作家、 重要無形文化財保持者)
原田一敏(東京藝術大学名誉教授)