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第41回淡水翁賞(令和七年度)


第41回淡水翁賞の受賞者が決まりました
 
 去る2026年1月29日(木)に第41回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
 淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で41回を数えます。
 50歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募頂けます。
 今回の応募者は9名でしたが、どの候補者も充実した力量の持ち主でした。
 作品を見ると、鋳金、彫金、鍛金のそれぞれの技法を駆使した作品で、内容もオブジェ、伝統工芸、ジュエリーなど様々ですが、何れの応募者も素材に真摯に向き合いながら制作していることが感じられました。
 その中から、第41回淡水翁賞に下記の4名が選出されました。
 選に漏れた方も、造形、技術とも素晴らしいものがありました。淡水翁賞は、年齢制限はあるものの、何度でも応募することが出来ますので、再度、チャレンジして頂くことを願っています。

 最優秀賞
 石川 将士 
『Overlapping』シリーズほか

【寸評】
 『Overlapping』というシリーズ名は、親と子、人と人、あるいは生と死など、繋がりや距離感といった重なり合う関係を意味している。たとえば、「Bond」では人と人の絆を表し、「Still Bloom」では枯れかけている花と、まだ咲き残っている花とを対比させ、「Gazania」ではガザニアという花で、親子を暗示するというように。こうした重なり合う関係に関心をいだくようになったのは、成長期での経験に由来するものだと、石川は語っている。
 これらの作品は、蝋でつくった原型をもとにして、石膏型にアルミニウム青銅、真鍮、を流し込んで鋳造されている。茶系統の色調は、材料自身の色調を、硫化反応等によって引き出したものである。(樋田)
Overlapping〈Bond〉
2025
24×20×6cm
アルミニウム青銅
Overlapping〈Still Bloom〉
2025
22×21×6cm
真鍮
Overlapping〈Gazania〉
2025
19×26.3×6cm
真鍮

 優秀賞
 寺嶋孝佳
『AI Portrait』シリーズ

【寸評】
 「AI Portrait」シリーズとは、AI(人工知能)で作成した作者自身のポートレートを、UVダイレクト印刷という技術で、アルミ複合板に印刷した平面作品である。画像作成にあたっては、チャットGPTという生成AIサービスが使われる。言語化した作者自身の情報(名前、男性、日本人、年齢、瞳の色、等々)を、チャットGPTに打ち込むと、AIが自動的にポートレートを作成する。入力条件が日々更新されれば、画像も自動的に変化していく。
 寺嶋はこの機能を使って、さまざまな自己画像をつくり、それらを自身のID(本人識別情報)と見なした。寺嶋はミュンヘン居住中の外国人であるため、つねにIDの携帯が求められるのだが、AIによる自己画像をIDに仮想したのである。UVダイレクトによる画像の印刷にあたっては、アルミ複合板に被せられたプラスチック板をタガネで点描状にハツり、凹凸をつくっている。成果物はブローチなどとして作品化される。
 AI画像とUVダイレクト印刷。寺嶋はこれらの最先端技術を使うが、それらは新奇な表現としてではなく、あくまでも「素材のひとつ」として扱い、これによって工芸の未知なる文脈を切り開こうとしている。(樋田)
Portrait(29.04.2023)
2025
49×35×0.5cm
アルミ複合板、UVダイレクト印刷、画像生成AI
Portrait(30.04.2023)
2025
49×35×0.5cm
アルミ複合板、UVダイレクト印刷、画像生成AI

優秀賞
藪内公
宙器-blooming refrections-2025」ほか

【寸評】
 新潟県の大学に職を得た藪内は、土器を間近に見て、土器のもつ原始のダイナミズムをアルミニウムで再現したいと考えた。その成果が、「宙器-blooming refrections-2025」である。
 この目的のもとに、アルミニウムの板を打ち出し技法で壺形に成形し、その表面には部分的に青色や緑色のアルミ箔などを貼りつける。さらには無数に開けられた小さな穴に、さまざまな糸を使って刺繍が施されている。これらの加飾がない部分には、彫り込みや棒溶着の技法で曲線模様が加えられる。
 こうした巧みな加飾もさることながら、この壺には古代遺跡から出土した用途の分からない神器のような雰囲気がある。それはこの壺が一枚の金属板から打ち出されているのではなく、10枚近い金属板を溶接して鍛造されているからである。溶接部分はきれいに消去されているが、壺の形状にはその制作過程が記憶されている。(樋田)

宙器-blooming refrections-2025
2025
56×45×45cm
アルミニウム、箔、糸、鍛金、彫り、刺繍

特別賞
東山葉月
「溶鉄獅子」

【寸評】

 家業が鉄工場であったので、鉄に親しんで育った東山ではあったが、工場の仕事は鉄ブロックの切削であったため、鉄の溶接は自分で始めるまで未体験であった。
 東山は3ミリや4ミリの鉄ワイヤーを、電気溶接で溶接して作品をつくる。今回の獅子のマスクも、すべてワイヤーの溶接で成型している。たてがみの部分は、いかにもワイヤーの造形に向いているが、顔面の部分は鼻筋や頬の曲面をワイヤーの集合でつくるには、あらかじめワイヤーを縦横に組んでおく必要があり、苦心したという。
 この作品が獲得した特別賞とは、どのように評価すべきか説明がつかないが、しかし造形的魅力にあふれている作品に与えられる賞である。いいかえれば、従来の物差しでは測れない審査員泣かせの作品に与えられる賞である。まさに「溶鉄獅子」はそういう作品だった。超絶技巧があるわけでもなく、かといって革新的な芸術思想があるわけでもない。しかし、ものづくりに対する食らいつくような情熱なら、たっぷりとあった。(樋田)


溶鉄獅子
2025
120×100×50cm

第41回淡水翁賞選考委員

北村眞一
中川 衛
樋田豊郎
春山文典