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第40回淡水翁賞(令和六年度)


第40回淡水翁賞の受賞者が決まりました
 
 去る2025年1月31日(金)に第40回淡水翁賞選考委員会が開催されました。
 淡水翁賞は1983年に若手の金工作家を奨励するために設けられた賞で、今年度で40回を数えます。
 50歳以下という年齢制限を設けていますが、金属素材を使った作品であれば、どのような作品を制作している方でも応募頂けます。
 今回の応募者は7名でしたが、どの候補者も充実した力量の持ち主でした。
 作品を見ると、鋳金、彫金、鍛金のそれぞれの技法を駆使した作品で、内容もオブジェ、伝統工芸、ジュエリーなど様々ですが、何れの応募者も素材に真摯に向き合いながら制作していることが感じられました。
 その中から、第40回淡水翁賞に下記の3名が選出されました。
 選に漏れた方も、造形、技術とも素晴らしいものがありました。淡水翁賞は、年齢制限はあるものの、何度でも応募することが出来ますので、再度、チャレンジして頂くことを願っています。

 最優秀賞
 久野 彩子 
「Core-2」ほか

【寸評】
「Core-2」は、東京生まれで東京育ちの久野がいだいている都市の心象風景である。東京には少子化が進む今日でも人がたくさん集まってくる。そして大勢の人と、人がつくる構造物によって都市は密集する。しかし人はその密集のなかに埋もれても、都市の外側を夢見る。故郷へのUターン、町おこし、田舎暮らし。それが叶わない人も、故郷で別れてきた幼馴染みを懐かしむ。そんな真逆の力が東京には凝集している。SNSには、そんな凝集をクールに見る声が溢れている。
「Reconstruction-Square」は、形態の構築に徹した作品である。作者流の「緊張感」を追い求めた結果でもある。緊張感といっても、それは鉄塔や鉄橋のような合理的で冷たい緊張感ではない。温かみを感じさせる緊張感である。そこに作者の形態への考察が見られる。
Core-2
2024年
20×37×33 cm
真鍮、洋白

 優秀賞
 半下石 礼子
「Runway」

【寸評】
 この場合の「Runway」(ランウェイ)は、ファッションショーでモデルたちが服のデモンストレーションをおこなう細長い舞台である。そのとき長身の女性モデルが履くであろうピンヒールを半下石は作成した。中国伝来の七宝作品は、七宝釉という素材、そしてその焼成技法の巧みさを誇ったが、作者はファッションショーという物語を作品に持ち込むことによって、七宝の歴史をあっさりと塗り替えてしまった。新しい七宝のはじまりだ。
Runway
2024年
25×25×25cm
シルバー、七宝、ジルコニア

優秀賞
三島 一能
「wallpaper」ほか

【寸評】
 三島一能は、金属技術に長けた芸術家であることに間違いないが、それ以上に、自分自身に関心を持ちつづけてきた自己観察者である。作品のどれもが、外部の何かと自己との心理的な交流軌跡を表している。こういう芸術家の登場は、日本では稀有なことである。
「wallpaper」では、壁紙を見る人が、壁紙に影響されて芽生える心境を題材にしている。そしてその心境が、こんどは逆に作品に封じ込められて、wallpaperの作品が出来上がっている。「KINTSUGI」は、心の傷が修復された記憶を表す作品である。はたして傷はそんなに簡単に癒やされるのだろうかとも思われるが、癒やされない傷をいつくしむ気持ちが、この作品をつくらせているのかもしれない。どちらの作品も、装身具としての機能をそなえている。

KITSUGI
2024年

wallpaper
2024年

第40回淡水翁賞選考委員

北村眞一
中川 衛
樋田豊郎
春山文典